第14話「こんなに動くんだ。」
7月31日。
右手や右腕のリハビリは、毎日続いていた。
作業療法士さんから、
「力が入っていますよ」
と言ってもらうこともあった。
褒めてもらえるのは、もちろんうれしい。
でも、自分の中では、今ひとつ自信にならなかった。
理由は単純だった。
自分が、どこまで動かしているのか分からなかった。
どこまでが、自分の力なんだろう。
右腕のリハビリでは、作業療法士さんに手を添えてもらいながら動かすことが多かった。
力が入っていると言われる。
少しずつ動くようになっているとも言われる。
でも、支えてもらっている。
だから、自分には分からない。
今の動きのうち、どこまでが自分の力なのか。
どこからが作業療法士さんの補助なのか。
「力が入っていますよ」
そう言ってもらっても、自分だけで動かしたところを見ていない。
だから、どうしても実感がなかった。
一度、自分だけでやってみたい。
そこで、自分から作業療法士さんにお願いした。
補助をしない状態で、自分の右腕がどのくらい動くのか見てほしい。
一度、それを確かめてみたかった。
マットに仰向けになった。
右腕をまっすぐ伸ばす。
作業療法士さんには、触ってもらわない。
完全に自分の力だけ。
そこから、肘を曲げてみた。
右腕が動いた。
肘が曲がる。
前腕が持ち上がっていく。
そして、肘が90度くらいまで曲がった。
こんなに動くんだ。
「こんなに動くんだ」
驚いた。
少し動いた、という感じではなかった。
自分の目ではっきり分かるくらい動いている。
もう一度やってみる。
動く。
さらにもう一度。
やっぱり動く。
2〜3回、同じように動かすことができた。
誰にも触ってもらっていない。
誰にも持ち上げてもらっていない。
これは、自分で動かしている。
それが分かった。
指が動いたときとは違った。
7月15日。
初めて右手の指が動いたことを確認した。
あのときも、もちろんうれしかった。
でも、動きはまだ小さかった。
「今、動いた?」
最初は自分でも疑うくらいだった。
今回は違った。
腕が大きく動いている。
目の前で、右肘が90度くらいまで曲がっている。
それまでまったく動かなかった右腕が、自分の意思でここまで動く。
この変化は大きかった。
そして何より、
自分の力で動かしている。
そう確信できたことが、自信になった。
腕のほうが先なのかもしれない。
作業療法士さんからは、指よりも肩や肘のほうが先に動いてくるかもしれない、という話もあった。
言われてみれば、なんとなく納得できた。
指は複雑な動きをする。
一本一本を動かしたり、物をつまんだり、握ったりする。
それに比べれば、肩や肘の動きのほうが先に戻ってくるのかもしれない。
自分の中でも、
「まともに動くようになるのは、腕のほうが早いのかな」
そんな感触を持った。
右手の指ばかりを見ていたけれど、回復はそこだけで起きているわけではなかった。
自分で確かめて、初めて分かった。
療法士さんは、それまでも変化に気づいてくれていた。
力が入っていることも教えてくれていた。
でも、自分では分からなかった。
自分の身体なのに、自分が一番分かっていなかった。
補助なしで試してみて、ようやく分かった。
右腕は、思っていた以上に動くようになっていた。
人から「動いている」と言われるのと、
自分の目で「動いている」と確認するのでは、
自分にとっては全然違った。
7月31日。
右腕が突然動き始めた日ではない。
きっと、その前から少しずつ力は入るようになっていた。
ただ、この日は、
自分の右腕がここまで動くことを、自分自身で初めて知った日だった。
「こんなに動くんだ」
その驚きが、大きな自信になった。
※このブログは、私自身の脳出血とリハビリの体験を記録したものです。症状や回復の経過、リハビリの内容には個人差があります。
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