第10話「自分のタイミングで。」
入院していると、当たり前だったことが、当たり前ではなくなる。
朝起きること。
服を着替えること。
そして、トイレに行くこと。
特にトイレは、なかなか大変だった。
行きたいときに、行けない
7月20日までは、一人でトイレに行くことを許可されていなかった。
トイレに行きたくなったら、まず看護師さんに伝える。
そして、看護師さんと一緒にトイレへ行く。
これは、移動を手伝ってもらうためではない。
安全のための「見守り」というルールだった。
トイレに入って、便座に座るところまで確認してもらう。
用を足している間は、一人。
終わったら、トイレから出てくるところも確認してもらう。
そういう決まりだった。
だから、少し行きたいくらいでは呼ばなかった。
本当に行きたくなるまで我慢して、それからお願いする。
看護師さんも忙しい。
お願いしたからといって、いつも自分の思ったタイミングで行けるわけではない。
それが、なかなか大変だった。
何度もお願いするのは、気が引ける
自分は、お腹の調子がぐずぐずすることが、ままある。
そんなときは、トイレに行ったばかりなのに、また行きたくなる。
さっきお願いしたばかりなのに。
また呼ぶのか。
そう思うと、どうしても気が引けた。
もちろん、看護師さんに頼んではいけないわけではない。
それでも、何度もお願いするのは申し訳ない。
トイレに行きたいという、自分ではどうにもならないことなのに。
行くたびに、少し遠慮してしまう。
入院する前には、そんなことを考えたこともなかった。
7月20日、見守りが外れた
7月20日。
トイレに行くときの見守りが外れた。
これからは、一人で行っていい。
そうなった。
といっても、歩いてトイレに行けるようになったわけではない。
移動は、まだ車椅子だ。
車椅子で、一人でトイレに行けるようになった。
ただ、それだけの変化。
でも、自分にとってはうれしかった。
いつでも、気兼ねなく
行きたいと思ったら、自分で行ける。
看護師さんを呼ばなくてもいい。
本当に行きたくなるまで我慢しなくてもいい。
お腹の調子が悪くて、何度も行きたくなったとしても。
そのたびに、申し訳ないと思わなくていい。
何よりうれしかったのは、そこだった。
自分のタイミングで、気兼ねなく行ける。
たったそれだけのことが、こんなにありがたいとは思わなかった。
普通のパンツは、まだ早い
ちょうどこのころ、紙パンツから普通のパンツへ切り替える話もあった。
でも、自分から延期してもらった。
見守りが外れた直後、おしっこで二回ほど粗相をしてしまったからだ。
一人でトイレに行けるようになった。
でも、いつでも間に合うとは限らない。
普通の布のパンツに切り替えたら、どうなるだろう。
そう考えると、まだ自信がなかった。
だから、紙パンツのままにしてもらった。
一人でトイレに行くことと、普通のパンツに戻すこと。
同じタイミングで、全部できるようになる必要はない。
今は、これでいい。
小さな自立
右手は、まだ思うように使えない。
右足も、リハビリの途中だ。
移動には車椅子が必要だった。
紙パンツも、まだ使っている。
一人でトイレに行けるようになったからといって、身体が急に動くようになったわけではない。
それでも、生活は少し変わった。
誰かの都合を待たずに、自分で決めて、自分で行ける。
入院する前には、何でもなかったこと。
それを、一つ取り戻した。
7月20日。
車椅子で、一人でトイレに行けるようになった日。
小さな変化だ。
でも、自分のタイミングで行ける。
それが、うれしかった。
※このブログは、私自身の脳出血とリハビリの体験を記録したものです。症状や回復の経過には個人差があります。
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