目標は、そこじゃない|脳出血の回復期リハビリで決めた本当の目標【第4話】
急性期病院から回復期病院へ
6月26日。
脳出血を発症してから、もうすぐ1か月。
私は急性期病院から、回復期病院へ転院した。
ここから、本格的なリハビリ生活が始まる。
病院から示された三つの目標
回復期病院に移って最初に行ったことの一つが、これからの目標を決めることだった。
足については理学療法士。
手や日常生活については作業療法士。
言葉については言語聴覚士。
それぞれ一対一で話をして、これから何を目指してリハビリをしていくのかを決めていった。
理学療法士と決めた目標は、
「装具を使って、一人で歩けるようになること」
だった。
作業療法士との目標は、もっと日常生活に直結したものだった。
「車椅子を使って、一人でトイレへ行けるようになること」
「一人で着替えができるようになること」
言語聴覚士とは、すぐに明確な目標を決めることはしなかった。
それまでどんな仕事をしていたのか。
どんな生活をしていたのか。
そういったことを話しながら、これからのリハビリの進め方を考えていくことになった。
もちろん、病院が示した目標がおかしいとは思わない。
右半身が麻痺している人間が、まず一人でトイレへ行けるようになる。
自分で着替えられるようになる。
装具をつけて一人で歩けるようになる。
どれも、とても大切なことだ。
私の目標は「元の生活に戻ること」
でも、私は少し頭にきていた。
目標は、そこじゃない。
そう思っていた。
私が目指していたのは、単に身の回りのことが一人でできる生活ではなかった。
できることなら、脳出血になる前と同じような生活がしたかった。
またギターを弾きたい。
またロードバイクに乗りたい。
またゴルフをしたい。
また車を運転したい。
以前と同じように、自分のやりたいことを自分でやれる生活に戻りたい。
それが私の考える「最終目標」だった。
最終目標と途中の目標は違う
病院側は、もっと現実的な目標を立てて、一つ一つ達成していくことを勧めた。
目の前にある小さな目標を地道にクリアして、その節目節目で達成したことを喜んでほしい。
そんな考え方だったと思う。
それも分かる。
リハビリは、一気に何かができるようになるものではない。
目の前のことを一つずつ積み上げていく。
その考え方自体を否定するつもりはなかった。
ただ、私はそれと「最終目標」は別だと思っていた。
最終目標は高く設定する。
そして、その高い目標にたどり着くまでの途中に、
一人でトイレへ行く。
一人で着替える。
装具を使って歩く。
という現実的な目標を置いていく。
私にとって、それらはゴールではない。
あくまで途中にある、ロードマップの節目だった。
そして一つクリアするたびに、
「よし、これで終わり」
ではなく、
「最終目標まで、あとどれくらいあるのか」
を意識していたかった。
私はその考えを病院側にも伝えた。
目標は高く設定したい。
最終目標と、そこへ向かうためのロードマップ上の目標は分けたい。
常に最終目標とのギャップを意識しながらリハビリをしたい。
でも結局、
「まずは地道に積み上げていきましょう」
という病院側の考えに押し切られた。
まあ、仕方がない。
病院には病院の考え方がある。
だったら、病院が設定した目の前の目標を一つずつクリアしていけばいい。
一歩ずつ進みながら、ずっと先を見る
ただし。
自分の中の最終目標まで下げる必要はない。
車椅子から立ち上がる。
一人でトイレへ行く。
着替える。
装具をつけて歩く。
その一つ一つをクリアしながら、そのずっと先を見る。
ギターを弾いている自分。
ロードバイクに乗っている自分。
ゴルフをしている自分。
車を運転している自分。
以前と同じように生活している自分。
その時の私から見れば、ずいぶん遠いところにある目標だった。
右手も右足も、まだ思うようには動かない。
本当にそこまで戻れるのかなんて、誰にも分からない。
それでも私は、最初から目標を低くする気にはなれなかった。
目標は高くていい。
現実的にするのは、そこへたどり着くまでの道のりでいい。
一歩ずつ進む。
でも、見るのはずっと先だ。
あきらめない。奇跡起こす!
そういう気持ちで、私の回復期病院でのリハビリが始まった。
前の話 → 第3話「拠り所」
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